コンピューターウイルス:「タコイカ」PC乗っ取り 器物損壊容疑を適用、作成者逮捕
毎日新聞 2010年8月4日
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パソコン内のファイルを勝手に上書きするウイルスを作り、 ファイル共有ソフト「ウィニー」に仕掛けて感染したパソコンを壊したとして、警視庁ハイテク犯罪対策総合センターは4日、O府I市N、会社員、N容疑者(27)を器物損壊容疑で逮捕したと発表した。パソコン内のハードディスクを使用不能にする点をとらえ、器物損壊容疑を適用してウイルス作成者を摘発した初のケース。 N容疑者は、感染すると特定の人物の名前や顔写真を画面上に勝手に表示させるウイルスを作ったとして08年、コンピューターウイルス作成者として初めてK府警に著作権法違反容疑などで摘発された人物。 警視庁によると、今回のウイルスは画面上に現れるキャラクターから「タコイカウイルス」と呼ばれ、N容疑者は09年7月に作成し、翌月に放出した。アニメ音楽などウィニー上の偽装ファイルをダウンロードした途端、タコやイカ、ウニなどのキャラクターによる動画ファイルが作動。パソコン内のファイルが次々と17種類のキャラクター画像に上書きされ、中のデータも復元不能になる。 逮捕容疑は、6月23日、ウィニー上の偽装アニメ音楽ファイルをダウンロードした北海道の無職男性(37)のパソコンを感染させ、ハードディスクを使用不能にしたとしている。N容疑者は容疑を認め、「前回の逮捕後にプログラミング技術がどれだけ向上したか試したかった。ウィニーで違法ダウンロードしている人を懲らしめようとも思った」などと話しているという。 男性はダウンロード後、すぐに感染に気づきパソコンの電源を切ったが、ファイル全体の17%が感染した。再度電源を入れると残りのファイルも感染して事実上パソコンが使えなくなるため、警視庁は器物損壊罪にあたると判断した。08年の事件の際、K府警も器物損壊罪の適用を検討したが、この時はインストールし直すと再使用可能だったため断念したとされる。 タコイカウイルスには感染パソコン内の情報をN容疑者側に無断転送する機能があり、N容疑者は「感染させた5万人分の情報を抜き取って自分のパソコンに集めた」 と供述しているという。警視庁はウィニー上の偽装ファイルをほかに4件確認しており、N容疑者の関与について調べている。 ◇08年、別ウイルスで有罪 N容疑者はO大大学院生=無期停学処分=だった08年、感染すると、ある同級生の名前や顔写真などを画面上に自動表示させるウイルスをウィニーでばらまき、著作権法違反罪などで懲役2年、執行猶予3年の有罪判決を受けた。当時の公判では「ウイルス作成以外のプログラミング技術で社会の役に立ちたい」と述べていたが、再びウイルス拡散に手を染めることになった。 08年当時のN容疑者はK府警の調べに「(ネット掲示板の)2ちゃんねるでウイルスが話題になって有頂天になった」などと供述。今回も「自分で作成したキャラクターを使えば逮捕されないと思った」と話し、自己顕示欲がエスカレートしていったことをうかがわせる。一方で「リーマン・ショックの影響で会社の仕事が減って自宅待機となり、むしゃくしゃしていた」とも話したという。 前回のウイルスは、感染パソコンからファイルデータをN容疑者のホームページに無断転送させる点で、タコイカウイルスと酷似している。しかし、前回の感染画面にはタコイカではなく、同級生のほか実在のアニメが登場する場合があり、著作権法違反罪が適用された。 タコイカは誰が作成したか不明で、著作権法違反罪は検討対象外だった。私用文書等毀棄(きき)罪や電子計算機損壊等業務妨害罪などの適用も検討されたが、いずれも構成要件を満たさず、器物損壊に落ち着いたという。 |