企業内教育にID理論を応用するための研究として、どのようなものが論文ネタになるだろうか。
ある素晴らしい実践をしました、というだけでは論文にはなりにくい。その結果、大変良い結果が出ました、となれば少しは可能性が出る。さらに、それはなぜだったのか、に迫れれば、可能性は高まる。理論と実践を橋渡しして、次の実践に参考になるような知見が得られるからだ。さらに、実践から理論を再吟味し、理論の発展に寄与するような知見が得られたときに、おそらく論文として採択される可能性が更に増すだろう。
第2回では、企業内教育におけるID理論の応用を志向した一つの論文を見ていこう。この論文では、ゴールベースシナリオ(GBS)理論の枠組みで既存の教材を点検するためのチェックリストが試作された。GBSの目で見たときに、既存教材がどの程度「GBS的な仕上がりになっているか」を点検することによって、その教材をよりよくしていくためのヒントを得てもらおう、という意図を持った開発研究である。日本教育工学会の特集号論文として採択されたのだから、何らかの「新規性」が認められたことになる。その新規性はどこにあるのだろうか。チェックリストを開発するというアプローチが、企業教育におけるID理論の応用を促進するだろうか。もっと良いアプローチはないだろうか。そんなことを考えてみよう。さらに、この研究を発展させるとしたらどんな方向性が考えられるかについても議論してみよう。