「コンテンツ」とは、内容や中身と訳されるが、ここで述べるコンテンツとは"eラーニングコンテンツ"のことであり、情報通信技術(ICT)を活用した学習において利用される、学習の対象となるモノを指している。
さて、言うまでもないが、PDS(PlanDoSee)はシステム的開発の基本である。教育活動、コンテンツ開発手法に関するモデルとしては、PDSをインストラクショナル・デザイン(ID)プロセスに則り提唱されたADDIEモデルが有名であろう[1]。ADDIEモデルでは、A:分析→D:デザイン→D:開発→I:実施→E:評価の5つのプロセスを時系列につなぎ着実に開発が進められる。しかし、1つ1つのプロセスを着実に行う必要があるために、開発には相応の時間が必要とされることも事実である。
コンテンツの開発手法に関する研究
ADDIEモデル (鈴木 (2005) 図1)
そこで、時間が最優先されつつある最近のコンテンツ開発では、従来、ソフトウェア開発分野で用いられてきたRapid Prototypingによる開発手法が広く採用されるようになってきており、Allenによる3段階連続接近法などが提唱されている[2]。Rapid Prototypingによる開発手法でもADDIEモデルの5プロセスを行うことに変わりはなく、両者の差異は、前者の1つ1つを着実に進める手法と、後者のDDEをいちどきに行い、それを数度重ねることにより、完成度を保持しつつ時間短縮を図るという部分にある。
3段階連続接近法:Allenモデル (鈴木 (2005) 図2)
近年では、ソフトウェア開発の現場がそうであるように、コンテンツ開発の場においても、オブジェクト指向型開発が進展してきている。この手法の利点は、"オブジェクト"というある動作(状態:dataと振舞い:method)を行い、他のオブジェクトとの関連性(property)を持ったユニット(モノ)を定義し、それらを組み合わせることにより、柔軟な開発と変更ができることにある。学習オブジェクト(LO:Learning Object)の代表としては IEEEのLOM(Learning
Object Metadata)、SCORM(Sharable Content Object Reference Model)におけるSCOなどがある[3]。
Web2.0と関連したICTの発展にともなうeラーニング2.0概念の広まりは、コンテンツのマッシュアップというトレンドを促進させていくであろう[4]。学習者自身によるpullタイプの学習が主体となり、コンテンツのマッシュアップも促進されていくeラーニング2.0時代では、質の保証されたコンテンツの共有、つまり今後は、LOの重要性がより一層高まっていくことが予想される。
指定論文
[a] 鈴木克明, (2005), e-Learning実践のためのインストラクショナル・デザイン, 日本教育工学会誌, 29巻 3号(http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/ksuzuki/resume/journals/2005b.pdf)
[b] きよみ・山崎・ハッチングス, eラーニング2.0の波(1), 日本イーラーニングコンソーシアム, 海外のe-Learning情報 第16回, http://203.183.1.152/kyoutsu/kaigai/n_kaigai_lp16.htm
参考文献
[1]
- Dick, W., Carey, J. O., & Carey, L., 角 行之(訳), (2004), はじめてのインストラクショナルデザイン ピアソン・エデュケーション, 東京
- Introduction to Instructional Design
http://itle.okstate.edu/fd/online_teaching/intro_to_id.html - ADDIE Model,
Learning-Theories.com
http://www.learning-theories.com/addie-model.html
[2]
- Allen, M. W., (2003), Designing Successful e-Learning: Forget What You Know About Instructional Design and Do Something Interesting, Pfeiffer & Company
- Allen, M. W., (2006), Creating Successful e-Learning: A Rapid System for Getting It Right First Time, Every Time, Pfeiffer & Company
- Rapid Prototyeping, Wikipedia, http://en.wikipedia.org/wiki/Rapid_prototyping
[3]
- オブジェクト指向を正しく理解する
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20060921/248617/ - 5分で絶対に分かるオブジェクト指向
http://www.atmarkit.co.jp/im/carc/special/fiveoo/00.html - 宮沢修二, (2004), eラーニングコンテンツ, eラーニングの理論と実装 第3章, 岡本敏雄, 小松秀圀, 香山瑞恵 編, 丸善, 東京
- Holzinger, A., Smolle, J., & Reibnegger, G., (2005), Learning Objects(LO): an Object-Oriented Approach to Manage e-Learning Content, Encyclopedia of Informatics in Healthcare & Biomedicine, pp.89-98, Lazakidou, A. Ed., Hershey, PA, ( http://user.meduni-graz.at/andreas.holzinger/holzinger/papers%20en/E06%20Learning%20Objects.pdf )
- IEEE LOM, IEEE Learning Technology Standards Committee, http://ltsc.ieee.org/wg12/
[4]
- Web 2.0スタイルのツールが変革する大学の教育現場, CNET Japan, http://japan.cnet.com/special/media/story/0,2000056936,20354034,00.htm