学習のねらい

 【第2回】では、『人材マネジメント入門』(守島基博・著,日本経済新聞社,2004年)をもとに、自分自身の人材マネジメント論に関する知識について、“正確性”と“網羅性”という観点からの洗い直しを行いました。【第3回】を始めるに当たって、「人材マネジメントの目的(デリバラブル)は何か」を思い出してください。前回の課題図書の中では、「経営の視点/人の視点」「短期的目標/長期的目標」という2つの軸からなるマトリックスをもとに、4つのデリバラブルが提示されていました。

表3-1.人材マネジメントの目的(出典:守島,2004,p21,表1-1)

短期的目標

長期的目標

経営の視点

成果による戦略達成への貢献を高める

戦略を構築する能力を獲得し、その能力を向上させる

人の視点

公平で、情報開示に基づいた評価と処遇を提供する

キャリアを通じた人材としての成長を支援する

【第3回】〜【第5回】では、この4つの目的(デリバラブル)の中で人材育成と直接関連した:

【第3回】
成果による戦略達成への貢献を高める (「経営の視点」からの「短期的目標」)
【第4回】
キャリアを通じた人材としての成長を支援する (「人の視点」からの「長期的目標」)
【第5回】
戦略を構築する能力を獲得し、その能力を向上させる (「経営の視点」からの「長期的目標」)

という3つを改めて取り上げ、更に深く掘り下げていきます。まず【第3回】では、「経営の視点」からの「短期的目標」に対応する、「成果による戦略達成への貢献を高める」という目的との関連から、人材育成について考えてみましょう。

 今日、経営目標の達成に直接的な貢献をすることが人材育成には求められていると言われています。つまり、人材育成とは“人格形成”や“人づくり”といったレベルで語るべきものではなく、また、単なる知識・スキルの修得支援を人材育成と見なすこともできないということです。このように、競争優位性に直結した知的生産性向上が、人材育成において強く意識されるようになった背景には、「コンピテンシー」という概念の導入が大きく関わっています。従って、今日の人材育成戦略を考えるには、コンピテンシーという概念の正確な理解が不可欠となります。

 このような状況を踏まえ、【第3回 人材マネジメントの動向(2):コンピテンシー】では、人材マネジメントの目的の中で、「経営の視点」からの「短期的目標」に深く関わりのある「コンピテンシー」という概念に焦点を当て、その背景・意味と意義・実践方法・問題点等について学習を進めます。

 ただし、学習を進めるに当たっては、前回と同様、情報の洪水に翻弄されることなく、基本的な概念を“正確”に把握することを意識してください。おそらく、コンピテンシーという“用語”は、すでにかなりポピュラーなものだと言えるでしょう。事実、コンピテンシーという言葉がビジネス・シーンにおける会話に登場しても、特に気にも留めないはずです。しかし、コンピテンシーという“概念”について、その正確な意味をしっかりと説明できると自信をもって言える人は少ないのではないでしょうか。人材育成について“プロ”として発言していくためには、基本概念の正確な把握は不可欠です。

 このような意識にもとづき、自分自身の知識を洗い直し、「自分が誤解していた部分」「自分の理解が不足していた部分」を把握した上で、コンピテンシーという概念の正確な理解を得る。これが今回の学習のねらいです。

最終更新日時: 2021年 04月 30日(金曜日) 16:24