【第2回】の課題図書『人材マネジメント入門』(守島基博・著,日本経済新聞社,2004年)では、「経営の視点/人の視点」「短期的目標/長期的目標」という2つの軸から抽出された人材マネジメントの4つの目的が紹介されています。その中で、【第3回】では、「経営の視点」からの「短期的目標」に対応する、「成果による戦略達成への貢献を高める」という目的を取り上げ、「コンピテンシー」という概念に焦点を当てました。
それに続いて、【第4回】では、「人の視点」からの「長期的目標」に対応する、「キャリアを通じた人材としての成長を支援する」という目的を取り上げます。
短期的目標 | 長期的目標 | |
経営の視点 |
成果による戦略達成への貢献を高める |
戦略を構築する能力を獲得し、その能力を向上させる |
人の視点 |
公平で、情報開示に基づいた評価と処遇を提供する |
キャリアを通じた人材としての成長を支援する |
すでに、【第3回】で学習した通り、競争優位性に直結した知的生産性向上が今日の人材育成には求められています。ただし、この見方はあくまでも「経営の視点」から見た人材育成であり、個人の視点に立てば、知的生産性向上のプロセスは「キャリアを通じて成長していくこと」(守島,2004,p62)や、「自分の価値を高めていくこと」(守島,2004,p63)と見なすことができます。
このとき、経営の視点からの「競争優位性に直結した知的生産性向上」という目的と、個人の視点からの「キャリアを通じた成長」という目的、この両者を矛盾なく実現するのは容易ではないことに注意すべきでしょう。事実、いかに両者を実現していくかについては、様々な議論が交わされていて、明確な答えは出ていないというのが実情です。現在、キャリア開発やキャリア・デザインと呼ばれる活動のあり方への関心は高く、様々なメッセージが発信されている一方で、この活動をめぐる状況は極めて混沌としていると言わざるを得ません。
では、このような状況に対して、どうアプローチしていけばいいのでしょうか。最近では、「経営の視点と個人の視点を共に実現できる」と主張する方法や実践を、毎日のように目にします。しかし、そのほとんどは“試案”にすぎません。人材育成について“プロ”として発言していくためには、このような状況に翻弄されてはいけないと、私は考えます。大切なのは、「“最新”と言われている方法が、従来の方法とどこが違うのか」を理解し、「新たな実践例の潜在的な問題点はどこにあるのか」を見抜くための基礎を自分の中に築くことではないでしょうか。そして、そのためには、学術的なキャリア・デザイン研究の中心的な理論・概念を正確に理解しておくことが必要となるはずです。もちろん、このような理論・概念を修得しただけで、キャリアをめぐる問題に対するソリューションを直ちに獲得できるとは限りません。しかし、あいまいな知識や限られた範囲の情報をもとに考えていても、問題解決に至ることは決してありません。
このような意識にもとづき、キャリア・デザインの考え方を反映した人材育成のあり方を探求するために、学術的なキャリア・デザイン研究の中心的な理論・概念について正確な理解を得る。これが今回の学習のねらいです。