【第2回】の課題図書『人材マネジメント入門』(守島基博・著,日本経済新聞社,2004年)で紹介されている人材マネジメントの4つの目的の中で、【第3回】では「成果による戦略達成への貢献を高める」という目的を取り上げ、コンピテンシーという概念に焦点を当てました。さらに、【第4回】では「キャリアを通じた人材としての成長を支援する」という目的を取り上げ、学術的なキャリア・デザイン研究の中心的な理論・概念について整理を行いました。
以上に続いて、【2ブロック】の最終回にあたる【第5回】では、「経営の視点」からの「長期的目標」に対応する、「戦略を構築する能力を獲得し、その能力を向上させる」という目的との関連から、人材育成について考えてみましょう。
短期的目標 |
長期的目標 |
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経営の視点 |
成果による戦略達成への貢献を高める |
戦略を構築する能力を獲得し、その能力を向上させる |
人の視点 |
公平で、情報開示に基づいた評価と処遇を提供する |
キャリアを通じた人材としての成長を支援する |
【第2回】の課題図書で述べられているとおり、「企業の戦略達成や競争力の強化という視点からみた場合の長期的活動が、リーダーの育成です。」(守島,2004,p25)つまり、“リーダー”をいかに育成していくかが、ここで考えるべきテーマとなります。
このとき、人材育成の場面において、“リーダー”や“リーダーシップ”という言葉がいくつもの異なる意味で使われている点に注意が必要です。
まず、人材育成の場面における最も伝統的な使い方として、リーダーシップという言葉には、上司・部下という関係における対人マネジメント能力という意味があります。この文脈では、リーダーはあらゆる階層の“上司”を指すことになります。そして、メンバーの情緒的・感情的側面に配慮したコミュニケーションや指導を通じて、組織・部門内の良好な人間関係を構築する。その能力を育成することが、ここでのテーマとなります。
また最近では、「次世代リーダーの早期選抜を行い、リーダー人材を戦略的に育成していくべき」という議論もよく耳にします。この文脈では、リーダーは“企業経営者”を意味することになります。経営者育成としての「リーダーシップ教育」ということです。これは、当然のことながら、上司・部下の関係における対人マネジメント能力の育成とは大きく異なっています。特に、この意味でのリーダー育成は、多くの場合、経営陣が直接関与する後継者選抜プロセスの一部となる点にその特徴があります。
さらに、「マネジャーとリーダーの違いを認識すべき」ということも、近年のリーダーシップ論ではしばしば議論されています(課題図書(1)・(2)を参照)。この文脈において、リーダーとは、必ずしも企業経営者を意味するのではなく、“自らビジョンと戦略を描き、変革を実現できるイノベーティブなビジネスパーソン”を指しています。いわゆるピラミッド型組織における中間管理職的な“マネジャー”と対比される、シンボリックな意味での“リーダー”です。そして、この意味での“リーダー”をいかに育成していくかということが、「戦略を構築する能力を獲得し、その能力を向上させる」という人材マネジメントの目的と深く関わってきます。
以上を踏まえ、“自らビジョンと戦略を描き、変革を実現できるイノベーティブなビジネスパーソン”という意味での“リーダー”の姿とその育成方法について考察することが、今回の学習のねらいとなります。