学習のねらい

 3ブロックの前半(第6回・第7回)では、経営学における「知識創造論」および「組織学習論」について、人材育成との関係を念頭においた考察を進めてきました。ここでの学習を通じて、「知識創造論」や「組織学習論」における議論を通じて見えてくる、人材育成上の課題を整理することができたと思います。

 それを踏まえ、3ブロックの後半(第8回〜第10回)では、知識創造や組織学習を推進するための“実践を通じた学習方法”に焦点を当てます。ここでは特に、 「アクション・ラーニング」と呼ばれる方法を出発点として、今日の人材育成において用いられている“実践を通じた学習方法”の特徴を整理するとともに、その可能性と課題を探っていきます。

 アクション・ラーニングという方法論は、1940年代にイギリスのR.レバンスによって実践され、その基本的なコンセプトが提示されたと言われています(McGill and Beaty, 1992)。それ以来、この方法論は人材育成の現場において様々なかたちで活用されてきました。人材開発の研究分野には、R.レバンスが提唱したアクション・ラーニングの基本概念や学習プロセス等を洗練し、独自の体系として構築することを志向している研究者も存在します。例えば、アメリカにおいては、M.J.マーコード(2001,2004)、イギリスにおいてはM.ペドラー(Pedler, 1997a, 1997b)が「アクション・ラーニング研究者」として知られています。しかし、一般的には、R.レバンス以来の流れを厳密に踏襲した(独自に体系化された)学習形態のみを指すのではなく、「現実世界における問題解決を通じた学習や、そのためのプログラム全般」という意味に解釈されることが多いと言えます。今日の企業内教育において、プロジェクト型研修問題解決型研修が盛んに用いられていますが、これらも広義には「アクション・ラーニング」という方法をベースとしていると見なすことができます。

 以上を踏まえ、経営学特論の第8回〜第10回では、独自に体系化された学習形態としての「アクション・ラーニング」を議論の出発点としながらも、そこから議論を発展させ、“問題解決と人材育成の関係”についてまで考察を深めていきたいと思います。

 なお、3ブロックの後半【第8回〜第10回】については、「アクション・ラーニング」「システムズ・アプローチ」「クリティカル・アプローチ」というテーマがそれぞれ挙げられていますが、それらは独立したものではなく、相互に関連したテーマである点に留意してください。これら3つの方法(ないしはアプローチ)に共通するのは、“問題の解決”という活動と“個人・組織の学習”という活動の相互構成的な関係への意識です。【第8回〜第10回】では、この点を認識した上で、3回続きの一連の学習として取り組んでほしいと考えます。

 まず、【第8回 組織変革の方法論(1):アクション・ラーニング】では、議論の出発点として、“マーコード流”のアクション・ラーニングを取り上げます。マーコード(2001)が提唱する方法について、そのねらい・進め方を整理し、“実践を通じた学習方法”としての特徴を探る。これが今回の学習のねらいです。

 続く【第9回 組織変革の方法論(2):システムズ・アプローチ】では、人材育成方法論としての“問題解決”という視点から、アクション・ラーニングについて批判的な考察を行います。ここでは、問題解決方法論(=システムズ・アプローチ)を活用した人材育成活動の課題を整理することがねらいとなります。

 さらに、3ブロックの最後である【第10回 組織変革の方法論(3):クリティカル・アプローチ】では、学習モデルという視点を導入します。経営分野において想定されている様々な学習活動のモデルの特徴を整理した上で、“実践を通じた学習方法”の可能性と課題をさらに検討していきます。

最終更新日時: 2022年 03月 25日(金曜日) 15:00