学習のねらい

 3ブロックの後半【第8回〜第10回】では、知識創造や組織学習を推進するための“実践を通じた学習方法”に焦点を当てます。ここでは特に、「アクション・ラーニング」と呼ばれる方法を出発点として、今日の人材育成において用いられている方法の特徴を整理するとともに、その可能性と課題を探っていきます。

 【第8回】、「アクション・ラーニング」の特徴把握に引き続き、【第9回 組織変革の方法論(2):システムズ・アプローチ】では、人材育成方法論としての“問題解決”という視点から、アクション・ラーニングについて批判的な考察を行います。ここでは、問題解決方法論(=システムズ・アプローチ)を活用した人材育成活動の課題を整理することがねらいとなります。

 すでに繰り返し述べてきましたが、人材育成方法論としてのアクション・ラーニングの特徴として、 “問題の解決”という活動と“個人・組織の学習”という活動の相互構成的な関係を強調している点を挙げることができます。誤解を恐れずに言ってしまえば、「個人・組織は問題解決を通じて学んでいく」というのが、アクション・ラーニングの基本的なスタンスです。では、学習に結び付くような“問題解決方法論”とはどのようなものでしょうか。この点に関して、「アクション・ラーニング研究者」として知られるマーコード(2001)は、以下の2つのアプローチに言及しています。

「問題解決アプローチには2種類ある。1つは分析的・合理的アプローチであり、もう1つは統合的アプローチである。分析的・合理的アプローチの擁護者は、問題には1つの正しい解決策があると考える。グループは論理に即して問題の原因を特定し、慎重な状況分析に基づいてさまざまな解決策を編み出し、そして解決策を決定する。他方、統合的アプローチの擁護者は、問題には複数の解決策があると信じており、行動と思考と学習は、等しく重要であると考える。問題解決だけが1つの目標ではなく、問題解決から生み出される学習もまた1つの目標であるとみなす。」

(マーコード,2001:109)

 このうち、後者が「システムズ・アプローチ」と呼ばれる問題解決の方法論です。つまり、システムズ・アプローチでは、好ましくない状況を改善・改革した結果だけを“問題解決の成果”と見なすのではなく、問題解決に関わった個人や組織全体の学習をも、その成果と見なしているということです(チェックランド・スクールズ,1994;センゲ,1995)。

 確かに、問題解決方法論に関する議論の文脈においては、この「問題解決から生み出される学習もまた1つの目標であるとみなす」という考え方は、斬新で魅力的な内容を含んでいると言えるでしょう。しかし、人材育成方法論に関する議論の文脈においては、少し慎重な対応が必要ではないでしょうか。「個人・組織は問題解決を通じて学んでいく」ということは、必ずしも「個人・組織が学習する最良の方法は、実践の場における“問題解決”」ということにはならないはずです。

 以上を踏まえ、『実践アクションラーニング:問題解決と組織学習がリーダーを育てる』の内容をたたき台として、問題解決方法論(=システムズ・アプローチ)を活用した人材育成の課題を整理する。これが今回の学習のねらいです。

最終更新日時: 2022年 03月 25日(金曜日) 15:58