学習のねらい

 【4ブロック】では、社会人の仕事に関する学習について、経営学、心理学、教育学、教育工学の視点からの考察を進めます。社会人の仕事に関する学習というと、まずは企業内での人材育成が思い浮かぶでしょう。しかし社会人の学ぶ場は、企業のなかだけに留まらず広く企業外にも広がっています。ここでは、社会人の仕事に関する学習を企業内人材育成だけでなく、企業外のインフォーマルな学習の場も含めて広く捉え、そこでの学習がどのように行われているか、今後、社会人の学習をどのようにデザインしていくかについて考察してきます。

 社会人の仕事に関する学習として、最初に注目されたのが「研修による学習」です。企業における研修はOJT(On the job training)に対しOff-JTとも呼ばれ、企業内人材育成の根幹を成してきました。今でも企業の人材育成担当者の主な仕事の一つは、研修の企画・運営と言えるでしょう。そして研修のような教育のデザイン手法として発達したのが「インストラクショナルデザイン」です。

 しかし1990年代以降、企業ではICTによる技術革新が進み、働き方が大きく変化する中で、企業経営における知識の重要性が認識されるようになりました。企業における「知識創造」が叫ばれたのも、この時期です(野中・竹内,1996)。こうした中で職場は、日々、新しい知識やスキルを学習する場として重要な場の一つと考えられるようになりました(Clus,2011)。1990年代はまた、日本では「失われた10年」とも言われ、経済の停滞とともに企業での働き方が次第に変化していった時代でもあります。非正規雇用が増加し、日本企業では、終身雇用や年功序列などそれまで「日本的」と言われてきた雇用慣行が次第に崩れていきました。こうした中、成果主義の導入や新規学卒者の採用制限が行われ、日本の強みと言われてきた職場で人を育てる仕組み(OJT:On the job training)は失われていきました。そこで、改めて職場で人を育てる仕組みを構築しようとする機運が高まっていったのです(中原,2010)。

 職場での学習としてまず注目されたのが、「経験学習」です。仕事経験による学習という学習モデルは、理論家だけでなく企業の実務家にも広く受け入れられ、経験によって人はどのように学習するか、どのような経験が成長を促すかについて研究が進められてきました。しかし中原(2013)が論じるように、「経験学習」で重要なのはどのような「経験」をするかだけでなく、経験したことを「内省」するプロセスです。ショーンが「反省的実践家」と呼んだように、優れた実践家は経験を内省することで学習していきます。 そして経験の内省や経験からの学習を支援し、促進するものが「他者とのかかわり」です。この「他者とのかかわり」に着目し、職場での学習のあり方を明らかにした研究が「職場学習」研究(中原2010)です。

 職場学習が注目されたもう一つの背景として挙げられるのが、学習者観の変化です。ウィリアム・ロスウェル(Rothwell 2002)は、これまでの職場での学習に関する研究があまりにも訓練者側に着目しすぎていたことを批判し、これからは「職場での有能な学習者(competent workplace learners)」の時代であると主張しました。職場での有能な学習者とは、自ら学習のニーズを把握し、職場でのリソースを活用して自律的に学んでいく学習者です。学習者観の転換は、職場にどのような学習リソースがあり、学習者はそれらをどう活用しているのかといった職場学習の実態に関する研究を促しました。

 「自ら学習のニーズを把握し、自律的に学んでいく学習者」は、企業内に留まらず企業外へも学びの場を広げています。こうした企業を越えた学習のあり方を、「越境学習」と呼びます。職場のなかだけでなく、企業外の勉強会や研究会等に参加して学ぶ社会人や、最近では、異なる複数の組織に所属しキャリア形成を行う「パラレルキャリア」や、高い専門スキルを持つ企業人がNPO等の組織でボランティア活動を行う「プロボノ」といった働き方にも注目が集まっています。

 【4ブロック】では、研修、経験学習、職場学習、越境学習という様々な切り口から、社会人の仕事に関する学習のあり方について理解を深めます。自らが「生涯学び続ける」学習者になるだけでなく、職場や社会のなかにいかにそうした学習の場を創造するかについて考察していきます。その第一歩として、【第11回 研修による学習】では、インストラクショナルデザインという考え方について学びます。

最終更新日時: 2022年 03月 25日(金曜日) 16:59