すでに学習した通り、ワークプレイスラーニングという概念には、生産性向上を実現するために、OFF-JTとOJT、さらには、現場組織における日常的な仕事の進め方や人事制度までも含めた、トータルな意味での効果的方法を探求しようとする姿勢が見出されます。つまり、研修・セミナーといったOFF-JT型のフォーマルな教育プログラムだけでなく、OJTや業務を通じての知識・スキル獲得といった“現場での学び”も、人材育成においては重要な役割を担っているという認識です。しかし、従来のOJTのあり方については、批判的な意見も少なくありません。たとえば、リーダー育成について論じる中で、中原・荒木(2006)は以下のように述べています。
「OJTといっても個人を仕事の中に放り出せば自然に学習が行われるわけではない。大切なことは、企業が計画的に成長につながる経験を積ませ、その過程を支援することである。これまでの日本企業の人材育成は、OJTという名のもとに曖昧化され、現場での育成過程が十分明らかにされてこなかった。」(前掲:99)
おそらく、中原・荒木(2006)が指摘した日本企業におけるOJTの現状は、リーダー育成という文脈をこえて、人材育成にかかわる多くの側面に当てはまるでしょう。
このような状況を変革していくには、【3ブロック】で取り上げた知識創造論・組織学習論の研究成果が重要な役割を果たすと考えられます。また、OJTのプロセスを経験や人との関わりから明らかにしようとした経験学習、職場学習、さらには組織の境界を超えた越境学習など【4ブロック】で取り上げた様々な学習に関する理解も求められるでしょう。
しかし、研修などのOff-JTやOJT、さらには越境学習も含め、「仕事に関する学習」をどうデザインするかについては、今後の大きな研究課題です。
たとえば中原・荒木(2006)は、「OJTをいかにデザインするか」を今後の研究課題として挙げていますが、OJTだけでなくOff-JTや越境学習も含めた仕事に関する学習全体をどうデザインするかもまた、大きな研究課題と言えるでしょう。
しかし、この問題には経営学だけでなく、教育学、心理学、組織行動学等の学際的な研究アプローチが必要とされ、現在では十分に学術的な研究がなされているとは言い難い状況です。
この問題については、これまでの学術的成果を踏まえつつも、それらを無批判に受け入れるだけではなく、現場で創造的な取り組みを進めることが必要不可欠です。
「・・・、多くの学問領域では、「企業や組織の現場で実際に行われている学習の様子を、質的研究を含む様々な手法で明らかにしよう」としていた。多くの学問分野においては、「そこで起こっていることは何か?」という記述的な研究に注力してきたが、今後は「それらの知見を使って、現場の学習環境をいかにデザインするか/リデザインするか」ということが研究課題になっている。」(前掲:99)
そこで、経営学特論の【課題2】では、社会人の「仕事に関する学習のデザイン」に関する、受講者の方々のビジョンを語って頂きたいと思います。この授業における学習内容を踏まえる一方で、職場でのこれまでの経験等を吟味し、自由な発想で「仕事に関する学習のデザイン」に関する自分自身の考え方を述べてください。
課題の実施については以下の点に留意してください。
- 上述の通り、「仕事に関する学習をいかにデザインするか」については、学術的にも確固たるビジョンは存在しませんので、自由な発想からご自身の主張を積極的に述べてください。ただし、自らの経験のみに裏付けられた狭い範囲内の“現実”から語ってしまうような「素人談義」に陥らない注意は必要です。あくまでも、学術的な研究成果をしっかり踏まえた上で、自分の主張を語るようにしてください。
- なお、今回の課題は、学習内容の総括という意味がありますので、これまでのタスク(タスク1〜タスク14)で述べた内容と重複する部分があっても構いません。特に、【4ブロック】の学習テーマの中に「実践を通じた学習方法」が含まれていた関係上、そこで述べた自分自身の考えに再度言及することも当然出てくると思います。
- ただし、学習を進める中で、【第1回〜第14回】のタスクで述べた内容から、自分自身の考えが変わってきた部分もあるでしょう。そのような場合、過去に自分が述べた内容にとらわれることなく、現時点の自分の考えを述べるようにしてください。なお、【第1回〜第14回】で述べた考えがどのように変化してきたのかについては、特に言及する必要はありません。
- レポートのボリューム(字数)については、特に厳密な条件を設けませんが、一応、3000字程度を目安とします。(これより多くても構いません。少ない場合でも、内容的に充実したものであれば問題ありません。)